男装した伯爵令嬢ですが、大公殿下にプロポーズされました
大公殿下が頬杖をやめて、頭の位置をまっすぐに戻すと、銀髪の前髪がサラサラと額を撫でる。
その下にあるサファイアのような青い瞳が狭められ、「遠すぎる。早くこっちに来い」と苛立ちを滲ませた低い声で命令された。
ハッと我に返った私は、焦りの中で足を前に進める。
一歩、二歩と大公殿下に近づくにつれ、ますます鼓動は速まり、振り切れんばかりだ。
父の言った『堂々と威厳に満ちて』という説明は間違えていないが、このお方を表すには、それだけでは足りないだろう。
圧倒的な美しさと、この迫力。
大公殿下を前にすれば、誰もがごく自然な行動として平伏すのではないかと思うほどに、絶対的な力を感じる……。
赤絨毯の上を、玉座の前まで進む。
ここまでというように、色の濃い朱色のラインが引かれていて、そこで足を止めた私は右足を軽く引き、右手を腹部に添えて、正式なお辞儀をする。
「ステファン・フォーレルと申します。本日より、御教育を賜りに参りました。どうぞよろしくお願い申し上げます」
頭はまだ下げたままで、いいと言われるのを待っているのだが、なかなか声をかけてもらえない。
もしかして挨拶の言葉に不足があったのではないかと心配していたら、たっぷりと間を空けてから「面を上げろ」と言ってもらえた。