男装した伯爵令嬢ですが、大公殿下にプロポーズされました
やっと自体を飲み込めた様子の少年の目からは、涙がポロポロとこぼれ落ちている。
よかった……。この子にとっても、殿下にとっても……。
立ち上がった私の頭に殿下の手が乗り、くしゃくしゃと撫でられた。
視線を合わせると、青い瞳はニッコリと弓なりに弧を描き、私も笑みを返す。
アベル様の意思を継ぎ、少年を救った殿下。
これで七年前からの心の傷は、少しは癒されたのではないかと、その胸の内を慮っていた。
「ご苦労だった」
「いえいえ、貴重なものを見せていただきました。今度は是非我が家の晩餐会に……」
殿下は螺旋階段の手前に立ち、貴族たち、ひとりひとりに労いの言葉をかけ、見送っていた。
その側には青の騎士がひとり、護衛についている。
他のふたりの騎士は詰所に戻って行き、クロードさんは少年を連れて、廊下を東へと歩き去った。
私はこの後、どうしたらいいのだろう。自室に戻ってもいいのだろうか?と、謁見の間を出てすぐの廊下で佇んでいる。
すると列をなす貴族たちから少し遅れて、バルドン親子が出てきた。
「退け、邪魔だ」
私に肩をぶつけてきたのは父親の方で、苦虫を噛み潰したような顔をして、私の横を通り過ぎた。
ムッとしている私に、今度は息子のロドリグが声をかける。
「君は大公殿下のお気に入りじゃないか。どうして騎士の格好をしているんだい?」
会ったのは半月ほど前の舞踏会のとき以来。
馴れ馴れしく私の肩に手を掛けてくるから、その手を払い落としてキッと睨みつけた。