男装した伯爵令嬢ですが、大公殿下にプロポーズされました
「僕が青の騎士をしている事情を、ロドリグ殿は知らなくて結構です。
そんなことより、あなたに謝罪を求めたい。殿下が弟君を手にかけたなどと、なぜあんな酷い嘘を……」
露骨に敵意を向けても、ロドリグはニヤついた笑みを浮かべている。
それが私の怒りを増長させ、問い詰めようとしたが、背を向けられた。
「廊下でその話はマズイと思うよ」
そう言って、謁見の間に引き返して行く。
彼から詫びのひとつでももらわないと気のすまない私は、後について謁見の間に入り、ドアを閉めた。
ふたりきりだと、さっきより室内が広く感じるが、心細さは微塵もない。
彼は丸腰で、私の腰には殿下から賜った剣が携えられているからだ。
赤絨毯の真ん中辺りで歩を止めたロドリグと向かい合い、私は思いっきり睨みつけた。
「ロドリグ殿の嘘のせいで、僕は殿下を信じられなくなり、苦しみました。
なぜあのような嘘を話すのです。アベル様は事故で亡くなられたというのに……」
「ああ、そうだったね。橋が切れて、邪視の子もろとも崖下に落っこちたんだっけ。
でも俺が話したことは、ある意味、事実なんだよ」
「ある意味、事実?」
「そう。殿下の弟殺しの噂は瞬く間に広まって、今でもそれを信じる者が多数。睨まれたくないから、殿下の前では皆、口を閉ざしているけどね。
今回の件で、邪視が迷信だったという噂が広まれば、七年前の噂も変わるのか……どうだろうね。昔と今回は違うと言う人もいそうだね」