男装した伯爵令嬢ですが、大公殿下にプロポーズされました

絶体絶命のピンチに陥り、青ざめる私。

返す言葉も見つけられぬ中で、ロドリグの左手が襟のボタンに伸びてきた。

女だとバレる恐怖に「やめて!!」と声をあげたら、一拍おいて、すぐ横にあるドアが荒々しく開けられた。

入ってきたのは、険しい顔をした殿下で……。


ロドリグはすぐに私を離し、問われる前に言い訳をする。


「ちょっと、からかっただけですよ。
なにもしておりません」


それでも殿下は表情の厳しさを解かず、私を背中に隠すように移動すると、ロドリグと対峙する。

それから「本当になにもされてないのか?」と、私に聞いてきた。


大きな背中に守られてホッとしながら、これまでの状況を説明する。


「性別を怪しまれ、脱ぐように言われましたが、まだなにも……」


『まだなにもされていない』と、全てを言い終える前に、「うっ」と苦しげに呻く声を聞いた。

一歩、横にずれ、何事かと覗き込んで驚いた。

殿下がロドリグの胸倉を掴み、右腕一本で宙に持ち上げているからだ。

殿下よりもロドリグの方が小柄だが、それにしてもすごい力……と感心している場合ではない。

私に被害がなかったのに、彼を傷つければ、バルドン公爵が怒鳴り込んできそうな予感がする。

慌てて殿下の腕にしがみつくようにして、その怒りを鎮めようとした。


「おやめ下さい! 僕は無事です。ボタンのひとつも外されていませんから!」

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