男装した伯爵令嬢ですが、大公殿下にプロポーズされました
ロザリオに刻まれた愛と絆

◇◇◇

邪視騒ぎを収束させた日から、十日ほどが過ぎていた。

都には木枯らしが吹き抜け、秋は深まりゆく。

外出にはマントが必須な寒さだか、中庭は幾らか暖かい。

それは四方を白壁に囲まれているせいだろう。


午後の秋晴れの空の下、中庭にいるのは私とリリィとハミン。

ハミンは邪視と呼ばれていた特殊な瞳を持つ少年だ。


調査の結果、この子は遠い田舎の貧しい家の出自で、特殊な目を理由に人買いに売られたということが判明した。

そのため、親元には返せない。

今後の身の振り方はまだ未定で、今は客人として、屋敷に仮住まいさせていた。


なぜか懐かれた私は、こうして空き時間があるとハミンに剣術を教えてあげている。

殿下にも『相手をしてやれ』と言われたことでもあるし、『いつかステファン様のような騎士になりたい』とハミンに言われては、悪い気はしない。

まるで弟ができた気分でいた。


水が止められている噴水前のレンガの広場で、木刀を手に、「えいやっ!」と向かってくるハミン。

私が軽く受け止めて横にいなすと、彼はコロリと転がった。


「ハミン、もっと脇を締めて振り下ろさないと、力が分散されちゃうから」

「はい!」


兄と弟のように木刀を交える私たちを、噴水横のベンチに座って眺めているのはリリィ。

今日は侍女付きではなく、ひとりでやってきた。

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