男装した伯爵令嬢ですが、大公殿下にプロポーズされました
初めはニコニコしながら見ていた彼女だけど、そろそろ退屈してきたみたい。
『私にも構ってよ』と言いたげに、ベンチで口を尖らせていた。
それに気づいた私は、ハミンを止める。
「今日はここまでにしよう。疲れたでしょ?」
「まだやれる。ステファン様、もう一回!」
「ダメだよ。ハミンは成長期の子供だから、やり過ぎはよくない。筋力をつけ過ぎたら、背が伸びなくなっちゃうよ」
適当な言い訳にも、ハミンは素直に頷いてくれて助かった。
木刀を置いてリリィの側に寄り、私を真ん中にして、三人並んでベンチに座る。
ふたり掛けのベンチだけど、女性と少女と少年なので、詰めれば座れるのだ。
すると、待ってましたとばかりに、リリィが手紙を取り出し、顔の高さに広げて見せる。
「あの方からのお返事よ!
私に会いたいって書いてあったわ!」
『あの方』というのは兄のステファンだ。
事情を知らないハミンがいるので、リリィはわざわざそういう呼び方をしてくれる。
まだふたりが文通していることは、もちろん知っている。
なにしろ手紙は私を介して送受しているので、ステファンからの手紙をリリィに届ける役目も私なのだ。