男装した伯爵令嬢ですが、大公殿下にプロポーズされました
だからそれには少しも驚きはしないが、その後に続いた言葉には目を瞬かせた。
ステファンがリリィに会いたがってるの?
あの臆病な兄が、リリィに恋して、社交界に飛び出す気持ちになったのだろうか……。
両親もステファンの将来をかなり不安視していたから、その変化はいいことだと思う。
でもリリィに会うために、『やっぱり僕が教育を受けに行ってくる』と言われても、途中交代は難しいというものだ。
いくら顔が同じでも、雰囲気の違いに気づく者がいるかもしれないし、なにより青の騎士を務めるのは無理だろう。
「リリィ、その手紙を読ませてもらえませんか?」
詳しいことが知りたくて、手紙に手を伸ばしたら、リリィにサッと隠された。
頬をピンクに染めて、ウフフと笑って言われる。
「恥ずかしいから読んではダメよ。あの方は繊細なのね。私を賞賛する美しい言葉が、詩のように綴られていたわ。それだけ教えてあげる」
リリィを褒める、美しい詩のような言葉?
あの兄が……へぇ……。
ふたりは手紙を通して、順調に愛を育んでいる様子。
会わせてみたいという好奇心に駆られるが、直接会ったら、リリィの愛が冷めてしまうのではないかと心配にもなる。
なにより兄を城に呼べば、ステファンがふたりいるというおかしな事態に陥るし……。
そんなことを考えていたら、北側のドアが開き、ジャコブが中庭に現れた。