男装した伯爵令嬢ですが、大公殿下にプロポーズされました
トレーを手にしていて、紅茶のポットとカップが三つ、焼き菓子も乗せられているのが見える。
私たちの前まで歩いてきたジャコブは、リリィに対して軽く一礼してから言った。
「寒いのではないかと思いまして、温かいお茶を用意しました。あちらのガーデンテーブルで、どうぞ」
それでみんなで花壇の横にある、ガーデンテーブルまで移動する。
三人分のひざ掛けまで用意してくれたジャコブは、よく気の利く執事だ。
紅茶とブランケットの暖かさに、ホッとひと息つく思いでいたら、給仕の手を止めて南側の窓を見たジャコブが呟いた。
「バルドン公爵が、お帰りのようですね……」
その言葉に反応して、私も南に振り向いたが、公爵は窓から見える廊下を、もう通り過ぎた後のようだった。
その姿を目にできなくても、公爵がどんな顔をして屋敷を出て行ったのかは、容易に想像できる。
きっと、苦虫を噛み潰したような顔だろう。
謁見の間に貴族たちが集まったあの日以降、バルドン公爵は連日、殿下に呼び出されていた。
公爵を騎士団の詰所に捕らえて尋問するわけにはいかないので、謁見の間で殿下自らが取り調べを行なっているのだ。
『知らぬ、存ぜぬ。執事が勝手にやったこと』と言い逃れをしているようだが、疑いが晴れないことに、相当苛立っていることだろう。