男装した伯爵令嬢ですが、大公殿下にプロポーズされました
「すみませんが、殿下のところへ行ってきます。どうしても、気になってしまいまして……」
私がいなくなることに頬を膨らませたリリィだが、すぐにニッコリと可愛らしい笑みを取り戻し、すんなりと聞き入れてくれた。
「お兄様のことが気になるのは、仕方ないわよね。恋って、そういうものだもの」
「へっ!?」
リリィに悪気はないと分かっているが、時々こうして焦らされるのは、どうにかならないものか……。
女であることがバレるか、はたまた私にまで男色疑惑をかけられるかと危ぶんで、まずはハミンを見た。
まだ七歳と幼い彼は、なにも気づかず、焼き菓子に夢中になっている。
続いてジャコブを見ると……なぜか笑いを堪えているような顔をして、コホンと咳払いしてから言った。
「ステファン様、どうぞ行って下さい。代わりに私が、おふたりのお相手を務めておきますから」
「う、うん。ありがとう……」
ジャコブが笑いそうになっていた理由は分からないが、感謝して、私は南のドアに向けて駆け出した。
中庭を出て螺旋階段を上り、廊下を走っていると、ちょうど謁見の間から出てきた殿下とクロードさんに出くわした。
「殿下、あの……」
駆け寄る私を見て足を止めた殿下は、厳しい表情を緩めてくれた。
「取り調べが気になって仕方ないといった顔をしているな」
「すみません。僕が出しゃばる問題ではないと分かっているのですが、心配で……」
「いいだろう。教えてやる。付いて来い」