男装した伯爵令嬢ですが、大公殿下にプロポーズされました

そんな私の気持ちを読んだかのように、殿下は顔を斜めに傾け、尖らせた唇を近づけてくる。

胸の高鳴りが増すのを感じつつ、そっと目を閉じると……ドアの開けられる音がして、その後に「コラッ!」と叱るクロードさんの声も聞こえた。

殿下は私を離して舌打ちし、私は……真っ赤な顔で俯いた。

キス顔を見られてしまったことよりも、残念だと思っている自分の心が恥ずかしくて……。


婚約依然の身で、しかも鍵も閉めずになにをしているのかと、ひと通り怒られてから、紅茶を飲みつつ、真面目な話に移る。

殿下は眉間に皺を寄せて、バルドン公爵のことを話してくれた。


「今日の取り調べでも、これといった成果は得られなかった。叔父上は、無関係だと言い張るだけで、口を滑らそうとしない。
すぐに話を逸らそうとするのも困りものだ。エリーヌのことや、ステファニーのことを……」

「私の話ですか?」


エリーヌ嬢を勧めてくるのは、いつものことなので、別段の驚きはないが、私についてなにを話すというのか?

少し考えて思い当たったのは、公爵の息子のロドリグのことだ。

性別を疑われたあのとき、危機一髪のところを殿下に助けられた。

私の身元は確認してあるとロドリグに言ってくれて、疑惑から逃れられたと思っていたのに、まだ疑われているのだろうか?

それでロドリグは公爵に、私が女ではないかと話したのでは……。


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