男装した伯爵令嬢ですが、大公殿下にプロポーズされました
それは大公殿下の声で、玉座から立ち上がり、ゆっくりとこっちに歩み寄りながら、「下がってろ」と騎士に命令していた。
青の騎士が壁際まで下がると、大公殿下は私のすぐ目の前まで近づき、一歩もない距離で足を止める。
厚底ブーツを履いている私だが、大公殿下は長身で、握り拳ふたつ分も上から見下ろされた。
サファイアのような瞳と目が合わさると、またしても心臓が跳ねて、焦りと緊張で鼓動が加速する。
そ、そうだった。謁見中だというのに、私ったらなんてことを……。
大公殿下は笑ってくれたから、さっきの無礼を許してくれそうな気がする。
それでも愚かで場違いな言動を恥じて後悔し、目を合わせていられずに、私の顔は徐々に下を向く。
すると長く美しい指先が私の顎を摘んで上に向け、視線を青い瞳に戻された。
低く滑らかなバリトンボイスが、兄の名を呼ぶ。
「ステファン、その名をしかと覚えたぞ。
面白い男だ。今度、俺の晩餐に招待しよう。ゆっくりとお前の話を聞いてみたい」
「あ、ありがたき幸せで……」
「もう日が落ちた。今日のところは引き上げて、ゆっくり休め。長旅ご苦労」