男装した伯爵令嬢ですが、大公殿下にプロポーズされました

ひと声いななき、馬が勢いよく走り出す。

驚いて道を開ける使用人や、出入りの商売人たち。

止めようとしている門番を無視して、北門から抜け出した私は、そのまま城下街を出て、東へ延びる細道に馬を全力で走らせた。


村をひとつ越えてしばらく進むと、東の山裾にたどり着く。

葉を落とした木々を針のように尖らせた山は、都よりも雪を積もらせていた。

この山を越える道はふたつ。

緩やかな坂道がうねるように続く、右側の遠回りの道と、山羊飼いしか使わないような急勾配で細い、左側の近道だ。

地図上の距離では確か、三倍ほども違ったように思う。


分かれ道で馬を止めた私は、雪の積もる地面を見つめていた。

右側への道には、何頭かの馬の歩いた跡がある。

その中には、殿下の一行も含まれていることだろう。

一方、左側の道は、誰にも踏みつけられていない、真っさらな雪道が延びていた。


馬に負担を掛けないよう、ゆっくりと進む殿下は、森に入った頃だろうか?

追いつくには右から行ってはダメだ。
左の険しい道を進むしかない。


手綱を引いて馬の鼻面を左に向け、首の辺りをポンポンと優しく叩いてやって、声をかけた。


「雪の急斜面は大変だけど、お前ならできる。頑張って。後で人参、たくさん食べさせてあげるからね」


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