男装した伯爵令嬢ですが、大公殿下にプロポーズされました
私の言葉か分かるかのように、馬はブルルと鼻息を荒くして、急斜面を頼もしく駆け上がる。
振り落とされないようにバランスを取り、馬を操る私にも、体力と技術と注意力を要する、かなりハードな山道だった。
やっと山越えしたときには、太陽が高度を下げ始めていた。
私も馬も息を切らせ、寒気の中に汗が湯気となり、立ち昇っていく。
森の入口までやって来て、もうひとっ走りすれば殿下の一行に追いつきそうだというのに、頑張り過ぎた馬は走ることができなくなっていた。
無茶をさせたことは百も承知なので、馬を降りた私は、手綱を引いて歩き出す。
立ち止まって休むという選択肢はない。
歩いてでも殿下との距離を縮めなければと、焦る気持ちは変わらなかった。
木々の生い茂る中に続く一本道は、馬車も通れるほどに幅が広くて歩き易く、疲れた馬にも私にもありがたい。
しかし、右を見ても左を向いても、薄暗い深い森。
冬の森には魔物が巣食っているような、不気味な気配が漂っている気がした。
急ぎたいのに急げない、もどかしさを感じて歩いて行くと、急に馬が足を止めて、耳を右側に動かした。
私にはなにも聞こえないが、この馬には聞こえているのだろう。
森の奥で、なにかが起きている音が。