男装した伯爵令嬢ですが、大公殿下にプロポーズされました
空には明るさがあるけれど、さっきから雪がチラチラと降ってきていて、殿下の一行が進んだ跡も、私の足跡も、消えかかっていた。
雪に覆われた地面に目を凝らすと、馬が反応した森の奥へと、分け入った痕跡が薄っすらと見て取れた。
突然、道を外れた理由は、尾行されていることに気づいて、身を隠そうとしたからだろうか……。
殿下までの距離は近いと理解すると共に、不安と焦りが急速に強まった。
身を隠そうとしたけれど見つかって、今頃、戦闘になっているのではないかと……そんな恐ろしい予感に襲われていた。
「早く、行かなくちゃ」
そう呟くと、馬が鼻先で私を小突いた。
まるで『乗れ』と言うかのように。
しばらくゆっくりと歩いていたため、馬の疲労も幾らか回復しているみたいで、私は再びその背に跨った。
辺りに警戒しながら、森の中へと馬を進めて行くと、すぐに嫌な予感が現実のものとなる。
茶色の毛をした馬が二頭、血を流して倒れ、息絶えているのだ。
その腹や首には矢が深々と突き刺さっている。
「これは……」