男装した伯爵令嬢ですが、大公殿下にプロポーズされました
城の馬なのは、見てすぐに分かった。
顔に見覚えがあるし、青の騎士団の紋章の入った鞍をつけているから。
殿下の愛馬は黒毛の馬なので、この二頭ではないが、これで襲われたことがハッキリして、私の焦りは最高潮に達した。
馬たちを可哀想に思うけれど、今は感傷に浸っている場合ではない。
「お願い、走って!」
疲れている馬の腹を強く蹴飛ばして、木々の間を縫うように走らせ、殿下を捜した。
まずは耳で知る。
大勢の男たちの唸るような雄叫びと、剣のぶつかり合う金属音が聞こえてきたのだ。
そして目に飛び込んできたのは、焦げ茶色の戦闘服に身を包んだ荒くれ者たちが、集団で殿下の一行を襲っている光景だった。
そこはポッカリと開けた場所になっていて、かつては炭焼き小屋だったと思われる朽ちかけた建物と、崩れた窯が奥に見えた。
戦闘服の男たちは、全員で三十名ほどもいるが、血を流して倒れている者も十名ほどいる。
副団長とジェフロアさんが前に出て、複数人を一度に相手にしているが、いくら強者のふたりと言えども手が回らずに、後ろにいる殿下とクロードさんにも、五人ほどが襲いかかっていた。
殿下は無事なようだけど、クロードさんの左腕からは、大量の血が滴り落ち、雪の地面を赤く染めていて……。