男装した伯爵令嬢ですが、大公殿下にプロポーズされました
ジェフロアさんの元へと駆け出して、殿下から二馬身ほど離れた、そのとき……。
私の耳にドサリと、なにかが落ちる音が聞こえた。
木の枝に積もっていた雪が一度に落ちたような音で、大きなリスでもいるのだろうかと、足を止めて木の上に視線を向けた。
私から四馬身ほど離れた場所にあるのは、葉を落とした柏の木。
その木の上に弓を構えた敵兵を見つけ、私は目を見開いた。
今にも放たれようとしている矢の先は、殿下に向けられていて……。
しまった!と思った瞬間、私は反射的に踵を返すと、殿下に向けて走り出していた。
血相を変えた私に、殿下も異変に気づき、ハッとして柏の木を仰ぎ見た。
それと同時に「死ね!」と叫ぶ男の声が聞こえて、矢が放たれたことを知る。
殿下に体当たりをして回避したかったが、あとほんの少しの距離で間に合いそうもなく、咄嗟に私は地面を強く蹴って、斜め上に飛び上がった。
両手、両足を広げ、体を捻って矢の飛んでくる方に向く。
できる限り当たる面積を広くして、殿下の盾となれるように……。
胸に強い衝撃と痛みを感じた。
心臓の位置に矢を受けた私は、死を覚悟する。
しかし、そこに悲壮感はなく、幸せにさえ思っていた。