男装した伯爵令嬢ですが、大公殿下にプロポーズされました
矢が当たった瞬間は結構な衝撃を感じたはずなのに、今はちっとも痛くない。
心臓は規則正しく元気に動いているし、血も流れていないような……?
パッと目を開けた私が急にムクリと身を起こすから、殿下をひどく驚かせてしまった。
青の衣の襟のボタンを二つ目まで外して、中を覗き込んだ私は、「あっ!」と声を上げる。
矢は金のロザリオに刺さっていて、胸に巻いている白い布帯には、一滴の血も染みていないのだ。
つまり矢が傷つけたのは、青の衣一枚と、十字架だけだったということで……。
矢を引き抜くと、襟元から十字架を引っ張り出して、驚いている殿下に見せた。
「昨夜、殿下が下さったロザリオに助けられました。こんな小さな十字架に当たるなんて、奇跡ですね」
笑顔で説明して、自分の無事を喜ぶ私に対し、殿下は放心したような顔をして、なぜか黙ったままだ。
どうしたのだろう?
もしかして、ここで命を落とした方が感動的でよかったのだろうか……。
そんな心配が湧いて、「あの、殿下?」と呼びかけたら、ハッと我に返ったような殿下に、苦しいほどに抱きしめられた。