男装した伯爵令嬢ですが、大公殿下にプロポーズされました
「バカやろう……もっと早く気づけ。地獄を見ただろうが」
「す、すみません」
大きな息を吐き出して、私の肩に顔を埋める殿下。
その温かな涙が、青の衣を通して、私の肌にしっとりと伝わっていた。
男泣きを嬉しく思う私だったが、殿下はすぐに涙を収めると、顔を上げて微笑んだ。
「そのロザリオはアベルの物なんだ。
アベルがステファニーを助けてくれた」
殿下は十字架を手の平に乗せ、傷のついた獅子の彫刻をじっと見つめていた。
「ありがとう」と呟いて手を離すと、自分の襟元からもうひとつのロザリオを引っ張り出して私に見せた。
それは、私の首に掛けられている物と、全く同じ物だった。
目を瞬かせる私に、殿下は教えてくれる。
モンテクレールの家紋の入ったこのロザリオは、殿下の亡き母君が職人に作らせて、三人の子供たちに贈った物。
リリィの胸にも、いつも下げられているということだ。
アベル様を亡くして以降、殿下は自分のロザリオは引き出しにしまい、弟君の物をいつも身につけていた。
それを昨夜、眠り込んだ私の首に掛けてくれて、自分の留守の間に私を守ってくれるようにと、願掛けしてくれていた。