男装した伯爵令嬢ですが、大公殿下にプロポーズされました
お妃様は跳ねっ返り
◇◇◇
【大公殿下、お元気ですか? こちらはすっかり雪がとけ、菜の花があちこちにーー】
ここはフォーレル家の二階の私の部屋。
午餐の食事に呼ばれるまで、殿下に宛てて手紙を書いている私だったが、二行しか書いていないというのにペンが止まってしまった。
手紙なんか書いても、きっと返事は来ないのに……。
簡素な机に頬杖をつき、正面にある窓から外をぼんやりと眺める。
温かな春の日差しに、緑が喜んでいるようだ。
ここから見えるのは、広い空と木や草花と、梢でさえずる小鳥たちだけ。
立派なブティックや、鐘楼がそびえる白亜の教会や、たくさんの家々の屋根がひしめく城下街は、遥か遠くにあり……。
暗殺集団に殿下が襲われたのは、一年と少し前のことになる。
あの事件後に、都の情勢も私の環境も、大きく様変わりした。
バルドン公爵は暗殺の件も、知らぬ存ぜぬで切り抜けようとしていたが、邪視の件のようにはいかなかった。
所詮、金で雇われた暗殺集団なので、邪視騒ぎの獄中で自害した、バルドン家の執事のような忠誠心は持ち合わせていない。
捕らえた者たちを締め上げれば、バルドン公爵に大金を渡されて依頼されたことを、アッサリと白状したそうだ。