男装した伯爵令嬢ですが、大公殿下にプロポーズされました

入れ替わりに気付かれず、ホッとしつつも、私は傷ついていた。


なんで誰も気付かないんだ……。

半年ほどお世話をしてくれたジャコブにまで気付かれないなんて、寂しいよ……。


今まで関わってきた人たちの私への認識は、所詮フォーレル家の跡取りという肩書きに過ぎなかったのかと悲しくなる。

あの城には、私の帰りを待ち望んでくれる人はいないんだ。

殿下もきっと……。



別れの日に殿下は、私を抱きしめてこう言ってくれた。


『必ず迎えに行くから、大人しく待っていてくれ』


だから私は嫌とは言わず、こうして実家に帰ってきている。

『迎えに行く』という意味を考えると、喜んでさえいた。

それなのに、一年以上が経過しても、殿下は迎えにきてくれない。

手紙を書いても、返事さえ来なくなった。


いつか私を妃に考えていると言ってくれた言葉は、嘘だったのか……。

それとも、側を離れたら、私への愛情は薄れて消えてしまったのだろうか?

もしかすると、どこかの美しいご令嬢が殿下に言い寄ってきて、心変わりしたとか……。


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