男装した伯爵令嬢ですが、大公殿下にプロポーズされました
二行書いただけの手紙の上に、ポタリと涙が落ちてインクが滲み、汚れてしまった。
ドレス越しに握り締めていたロザリオを離し、手の甲でグイと涙を拭くと、汚れた手紙をふたつに引き裂き、丸めて床に放り投げた。
心変わりしたなら、そう言ってくれればいいのに。
手紙さえ寄越さずに、放置したままなんて、そんなの酷いよ!
ガタンと椅子を鳴らして立ち上がり、レモン色のドレスを脱ぎ捨てた。
女らしくしていたら、殿下が迎えに来てくれるのではないかと、最近は男装をやめていた私。
でも、よく考えれば、今女らしくしたところで殿下に見せる術はないのだから意味はない。
「バカみたい………」
そう呟いた私は、キャビネットから男物のブラウスと若草色のズボンを引っ張り出して着替えをした。
姿見の前に立ち、ひとり頷く。
うん、これが私らしいというものだ。
腰に差したのは、実家で愛用していた剣。
殿下に賜った剣は、ステファンの腰になければ、他の人たちになくしたと思われるから、泣く泣く手放すこととなった。