男装した伯爵令嬢ですが、大公殿下にプロポーズされました
止めていた手を動かして、空にヒュンヒュンと剣を唸らせる。
花嫁修行したって、相手もいないのに……。
今切りつけているのは、思い出たち。
舞踏会で殿下とワルツを踊り、頬を染めていた自分を薙ぎ払う。
戸惑いながら初めてのキスを受け入れた自分には、鋭い突きを食らわせて、
殿下の腕の中で、裸で喘いだあの夜の自分を、上から真っ二つに斬り裂いた。
全ていらない思い出だ。
抱えていたら苦しくて、涙が止まらなくなってしまうから……。
殿下への恋心を断ち切ろうと、幸せな思い出を次々と斬り刻んでいく私。
殿下が私を必要としてくれないのなら、私だって……。
「殿下のことなんか、忘れてしまえばいいんだ!」
左から右へと垂直に剣を振り、その勢いに乗って体を半回転させた。
すると……。
剣のぶつかり合う甲高い音が、裏庭に響く。
誰かが私の剣を受け止めたのだ。
「相変わらずだな、ステファニー」
笑いを含んだその声は、優しく、懐かしく、愛しくて……。
「殿、下……」