男装した伯爵令嬢ですが、大公殿下にプロポーズされました
聞かれていたことに焦って、涙の量は急に減る。
腕の中から顔を上げると、サファイアのような瞳が、いたずらっぽく弧を描くのを見た。
「離れていても、俺は一日足りともお前を忘れたことはないぞ。もう一年、会えなかったとしても同じだ。それなのにお前は、俺を忘れることができるのか?」
「……できません。もし迎えに来てくれなかったとしても、殿下のことは一生、忘れることはできません……」
答えながら、また涙が量を増す。
押し込める必要のなくなった愛しさが爆発して、苦しいほどに鼓動が高鳴る。
胸は歓喜に震えていた。
殿下の手が、私の頬を包み込むように優しく触れる。
口角を上げた唇が涙をすくように瞼に触れて、目を閉じた私は唇が触れ合う瞬間を待ちわびた。
そのとき……クロードさんの、待ったの声を聞く。
「殿下、フォーレル伯爵と皆様が、困惑していらっしゃいます」
ハッと目を開けて、横目で屋敷の方を見る私。
裏口の前には、両親とうちの使用人五人が勢揃いして、目を白黒させていた。
その横にはクロードさんとジャコブ、それにジェフロアさんも護衛として一緒に来たみたい。
城からの一行は、我が家の者とは違い、嬉しそうな顔をしていて……。