男装した伯爵令嬢ですが、大公殿下にプロポーズされました
婚礼の儀の後、殿下とお妃様は、馬車に乗って大通りをゆっくりと通る予定。
聖堂のほど近くで、通り沿いの前から三列目という好位置を、アベルはキープしていた。
しかし、それでも背丈の小さなアベルには、通りも聖堂も見えやしない。
ピョンピョン飛び跳ねながら「見えないよ」と半ベソをかけば、隣に立つ祖父のダニエルが「しょうがないな」と彼を肩車して、その重みに嬉しそうに目尻に皺を寄せた。
「あ、見えた!」
アベルが無邪気に喜んだとき、聖堂の重厚な両開きのドアが開けられた。
ワッと歓声が湧き、辺りは煩いほどになる。
長く伸びる赤絨毯の上を、ゆっくりと歩いて姿を現したのは、待ちに待ったお妃様だった。
藍色の燕尾服を華麗に着こなす大公殿下に手を引かれ、静々と淑やかに進みゆく。
そのお姿は、子供のアベルでも溜息をつくほどに美しい。
スカートが大きく膨らんだ純白のドレスに、レースのベールが長く後ろに伸びていた。
豪華なティアラの輝きよりも、金色に波打つ髪が美しく、大きくてクリッと丸い瞳や、ふっくらと艶のある唇は、なんと愛らしいことか。