男装した伯爵令嬢ですが、大公殿下にプロポーズされました

殿下とお妃様は一度立ち止まると、笑顔で民に手を振り、歓声に答えてくれて、また歩き出した。


「おじいちゃん、綺麗だね!」とアベルが言えば、ダニエルは得意げに答える。


「そうじゃろう。うちが仕立てたドレスと燕尾服だ。よく目に焼き付けて、お前も大きくなったら、ああいう服を作れる職人になりなさい」


ダニエルは老舗の仕立屋の三代目。

目が弱り針穴が見えなくなってしまったので、昨年の冬に引退し、今は息子が後を継いでいる。

今回の婚礼の衣装を手がけた息子を誇らしく思っていることが、その満足げな表情から見て取れた。


ダニエルは大公家御用達の仕立屋として、城に呼ばれた過去を懐かしむ。


(アミルカーレ殿下のお召し物は、ほとんどワシが縫ったものだ。妹君のリリアーヌ様のドレスも数着、仕立てたし、亡き弟君のアベル様の衣装も……)


肩の上で無邪気な歓声を上げる孫の名前は、アベル。ダニエルが付けた名だ。

殿下の弟君の名前をつけた理由は、殿下を少しでも励ましたいとの思いからだった。


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