男装した伯爵令嬢ですが、大公殿下にプロポーズされました
少々の焦りを感じているのは、その点に関してのみで、教科書を読んで訳せと言われたからではない。
エドガーや他のお坊ちゃんたちが笑いを堪えて見つめる中、教科書を手に立ち上がった私は、ラテン語の文章を一ページ分スラスラと読み上げてから、一気に訳した。
「味方の兵は次々と倒され、王と騎士のヨハンは、とうとうふたりになってしまった。追手はすぐそこまで迫って来ている。狭い橋まで来たときにヨハンは……」
なにこの物語。
ものすごく不満があるんだけど。
敵に追われて逃げる王とヨハン。
橋まで来たときにヨハンは王に言う。
『王様はこのままお逃げ下さい。私はここで、敵を食い止めます。どんなに切られようとも、何本の矢で射抜かれようとも、死んでもこの橋を渡らせません』
そう言われた王の返事が『よし、頼むぞ』って……そんなの最低でしょ。
騎士としては王を守るのが使命。王は生き残って血筋を残すのが使命だとしても、アッサリしすぎ。
ここはもっと『なにを馬鹿なことを。お前の命だけ犠牲にして逃げ延びれるか』『なりません、王様』『いや、しかし』と言い争った末に、致し方なく逃げてよと、物語の王に言いたくなった。