男装した伯爵令嬢ですが、大公殿下にプロポーズされました
今から八年ほど前のこと、弟君が亡くなり、殿下は大層苦しんだ。
あのとき、殿下が邪視の子を使って、弟君を呪い殺したなどという噂が都に広まった。
誰もが眉をひそめてヒソヒソと非難する中で、ダニエルは噂を信じなかった。
服を仕立てるために、城に通った月日は三十年ほど。
赤ん坊の頃の兄弟の顔も知っている。
幼い頃も成長してからも、大公家の兄弟の仲が非常によかったことを、ダニエルは知っていたのだ。
そして、殿下が弟君の死を悲しみ、なかなか立ち直ることができずに、ずっと喪に服し続けていたことも……。
これまで、殿下のブラウスの襟を留めるのは、いつだって喪章のような黒い棒タイだった。
心配したダニエルは、殿下の好きな藍色の棒タイを、特上のシルクで作り、献上したことがあったのだが……受け取ってくれても、一度も締めてもらえない。
普段も、晩餐会などのパーティでも、いつも黒い棒タイを締める殿下。
擦り切れたので、黒い棒タイを新調したいと注文されるたびに、ダニエルは心を痛めていた。
(そのようにいつまでも悲しんでおられては、天国のアベル様も心配じゃろうに……)