男装した伯爵令嬢ですが、大公殿下にプロポーズされました
そんな頑なな大公殿下が今、襟に締めているのは、艶のある藍色の棒タイだった。
かつて献上した、あの棒タイであることは、作った本人のダニエルならひと目で見て分かる。
ダニエルは胸のつかえが取れた心持ちで、大公殿下を見つめていた。
その年老いた瞳には、涙がキラリ。
(よかったのう。やっと立ち直ることができたんじゃのう。これも、可愛らしいお妃さまのおかげかのう……)
「あ、じいちゃん、こっちに来た!」
アベルが興奮して肩の上ではしゃぐから、ダニエルはよろけて焦り、懐古から抜け出した。
殿下とお妃様は赤絨毯を歩き切り、今、馬車に乗ったところ。
着飾った二頭の馬が引くのは、屋根のないパレード用の車だ。
お妃様は奥に乗り、その隣に座る殿下はこっち側。
沿道からも建物の窓からも、街人たちが花びらをまくものだから、キラキラと眩しい光の中に、まるでカラフルな雨が降っているかのようだった。