男装した伯爵令嬢ですが、大公殿下にプロポーズされました
瞬時にこちらの事情を理解してくれた殿下が、お妃様に声をかけてくれる。
すると、美しいお妃様が、こっちに振り向いてくれて……。
「ほれ、アベル今だ。投げなさい」
「うん!」
小さな手が力いっぱいブーケを空に放つ。
しかし、距離は届いているのだが狙いが悪かった。
ブーケはお妃様の頭の、半馬身ほども後ろに落ちそうだ。
これでは受け取ってもらえないだろう。
「ああっ!」とアベルが泣きそうな声を上げた直後、集まった民の誰もが目を疑った。
純白のドレスを着て、淑女然りとしていたお妃様が、突然機敏に動いて飛び上がり、腕を伸ばして宙でブーケをキャッチしたからだ。
馬車から落ちんばかりの体を慌てて捕まえたのは殿下で、「危ないだろ!」と叱る声が、ダニエルの耳にも届いていた。
殿下の両腕に、しっかりと腰の辺りを抱えられているお妃様が、「ありがとう!」とタンポポのブーケを振って、アベルにお礼の声までかけてくれる。