男装した伯爵令嬢ですが、大公殿下にプロポーズされました
それまで退屈だと思っていたが、読み上げつつ心の中で意見していたら、続きが気になった。
果たして、騎士ヨハンは敵を食い止めることができたのか。王は味方のいる場所まで、無事に逃げ切れたのかと……。
それで、教師に指示されてもいないのに、二ページ、三ページと読んで訳すを繰り返していたら、五ページ目で止められた。
「ステファン殿、もう結構です!」
「あ、すみません。つい、続きが気になって……」
しまったと思いながら肩を竦めて着席すると、読みすぎを叱られるのではなく、なぜか「素晴らしい!」と褒められた。
「なんと、見事なラテン語でしょう。発音まで完璧でした。ご実家では、一体どなたに教わっていたのですか?」
「ナマン・カンデラ先生です。フラッと我が家に来て、職を与えて欲しいと父に頼んだそうで、僕と兄……いえ、妹のラテン語の家庭教師を二年ほど」
ナマン先生に教わったのは、十歳の夏から十二歳の秋まで。
白い顎髭を豊かに蓄えたお爺さんで、気さくで朗らかな人だった。
じっと座って勉強することが嫌いな私でも、ナマン先生が聞かせてくれるラテン語の物語は面白かったから、楽しく勉強していた覚えがある。
現れたときと同じく、ある日突然、書き置きを残してフラリと旅立ってしまい、それ以降の消息は分からないけれど。