男装した伯爵令嬢ですが、大公殿下にプロポーズされました
懐かしいナマン先生を思い出していたら、教師が目も鼻も口も大きく開いて、盛大に驚いていることに気づいた。
「な、なんと、ナマン・カンデラ博士でしたとは……。この国のラテン語学の権威でいらっしゃいますぞ!」
「へぇー。あのお爺ちゃん、すごい人だったんですか」
「ステファン殿、あなた様のラテン語は完璧です。私が教えることはなにもありません。これからは私の授業時間は、自習に当てた方が宜しいかと」
余計なことを教えてしまいそうだからと、急に私に対して下手に出て、恭しい態度を見せる丸眼鏡の教師。
その態度の変化を気にするよりも、もうラテン語の授業に出なくていいと言われたことに、私は「ヤッタ!」と正直に口に出して喜んだ。
ということは、三日に一度はあるこの時間を、自由時間にできるということで、どこへ遊びに行こうかと心を躍らせている。
教科書を閉じ、早速出て行こうと立ち上がったら、隣の席のエドガーと目が合った。
彼も教師同様、驚きを顔に浮かべていて、私から視線を逸らして目を泳がせると、「すごいな……」と呟いている。
周囲を見回すと、他のお坊ちゃんたちも似たような顔をしていた。