男装した伯爵令嬢ですが、大公殿下にプロポーズされました
そんな反応をされると、逆に困るんだけど……。
ラテン語ができても、他の授業についていけるかは分からない。
なにしろ『幾何学ってなんですか?』と、昨日クロードさんに質問したくらいだから。
ともあれ、教師の気が変わらないうちにと授業部屋を飛び出した私は、大きな螺旋階段のちょうど裏側に当たる、北側の階段を使って三階へと駆け上がった。
自室がこの階の東側にあるからだ。
与えられた部屋の扉を開けると、中ではジャコブが掃除をしてくれている最中で、窓拭きの手を止めて振り返ると、目を瞬かせた。
「随分と早いお戻りですね。ラテン語の授業は、どうされたんですか?」
「もう出なくていいんだって」
「はい?」
部屋の中にはベッドと机、小さな書棚、丸テーブルと椅子のセット、それと洋服をしまっておくキャビネットがあるだけで、実家の自分の部屋より広さは狭かった。
それでも調度品は豪華で質が高く、さすが大公殿下のお城といった内装だ。
美しい装飾の施された机の上に教科書を投げ置くと、ジャコブが整えてくれたベッドの上にドサリと腰を下ろす。
それから、訝しむように見ている彼に授業中の出来事を話して聞かせた。