男装した伯爵令嬢ですが、大公殿下にプロポーズされました
眉間に皺を寄せて、頭を振る父に、レースのハンカチで目元を押さえて涙ぐむ母。
せっかく夜盗を退治したのに、なんで誰も褒めてくれないのよ……。
私がお縄にした夜盗は、あの後、村の自警団の青年にしょっ引かれて行った。
今頃はきっと、教会の地下牢で、神父様に懇々とお説教されていることだろう。
誰を傷つけた訳でもなく、盗まれた品もないので、すぐに釈放となりそうだ。
重い罪を犯さずに済んだのも私のお陰ということで、夜盗にも感謝してもらいたいところなのに。
パンを一枚食べ終え、「ニーナ、おかわり」と後ろに控えている古参のメイドに声をかけたら、「反省しとらんのか!」とまた父に叱られた。
自分が悪いと思えば反省もするし謝るけれど、今は理不尽だと感じているのでそれはできない。
男に生まれたかった……と、今までに幾度となく思った不満を心の中で呟くだけだ。
両親は女らしさを私に求める。
嫁の貰い手がなくなると心配して。
しかし、私が淑女であったとしても、果たして両親が望むような求婚者が現れるのかは疑問。
貴族の結婚なんて、所詮は家柄重視の政略結婚ばかりだ。