男装した伯爵令嬢ですが、大公殿下にプロポーズされました
北の裏門の門番が敬礼して大公殿下を迎え、出入りしていた街の平民や下働きの使用人たちは、一斉に道を開けて頭を下げていた。
屋敷を半周して正面玄関に回ると、私たちは馬から降りて、二頭の馬は屋敷から出てきた使用人に引き渡された。
無事に帰り着いたことにホッと緊張を解こうとしたら、「さて、お仕置きしないとな」と言われてギクリとする。
私の頭に、大きな手が乗った。
ポンと一度叩いてから、大公殿下は大きなストライドで屋敷の中へ。
クロードさんは肩をすくめている私の背に手を当て、歩みを促しながら、「大丈夫ですよ。殿下は怒っておりません。むしろ楽しんでおいでです」と片目を瞑って微笑み、小声で教えてくれた。
二階の謁見の間の、斜め向かいにあるドアの中に通された。
ここは大公殿下の執務室だという。
謁見の間と違い、華美な装飾は施されず、椅子の座面の布地や絨毯、カーテンが藍色で統一された落ち着いた空間だ。
部屋の中央に大きな執務机があり、壁際にはギッシリと本の詰め込まれた書棚。
奥には足を伸ばしてくつろげるような長椅子が一脚と、普通の椅子が二脚のテーブルセットが置かれている。
執務室は寝室の次にプライベートな空間であり、特別なものを見た気分で緊張し、背筋が伸びた。