男装した伯爵令嬢ですが、大公殿下にプロポーズされました

羽織っていたマントを執務机に無造作に投げ置いた大公殿下は、クロードさんに言った。


「腹が空いた。食事をここに運んでくれ。お前と俺とステファンの分をな」


まだドア付近に突っ立っている私は、大公殿下と午餐の食事を共にする展開に目を瞬かせた。

国を統べる大公殿下というお人は、雲の上の存在で、私ごとき田舎貴族が気軽に近づいてはいけない気がしていたのだが、殿下の方から私を近くに寄せてくれるとは。

執事であるクロードさんにも一緒に食事をと誘うなんて、その気さくさに驚き、心惹かれていた。

私も実家ではしょっちゅう厨房に出入りして、摘み食いしながらメイドのニーナと友達のように話していたから、大公殿下のそういった面には親近感を覚える。


しかし、意外で驚くべきなのは、大公殿下よりもクロードさんの方だった。

殿下の投げ置いたマントを手に取ったクロードさんは、その皺を伸ばしながら、「アミル、飲み物は? ワインにする?」と言ったからだ。

"アミル"とは、アミルカーレ・ド・モンテクレールという大公殿下の名前の愛称だろう。

砕けた口調と、親しげな呼び方。クロードさんって、一体……。


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