男装した伯爵令嬢ですが、大公殿下にプロポーズされました

「水でいい」と答えた大公殿下は、「ステファンはワインを飲むか?」と聞いてくれて、「い、いえ、僕も水でお願いします」と答える声が上擦った。

殿下とクロードさんを交互に見て、戸惑っていたら、ふたりは同時に笑った。


「ステファン様、失礼いたしました。つい、敬語を使うのを忘れておりまして」とクロードさんが言う。

殿下は部屋の奥にある長椅子にドサリと腰を下ろして、「クロードは特別だ」と教えてくれた。

その説明によると、クロードさんの母親が大公殿下の乳母だったそうで、ふたりは言わば乳兄弟ということだった。


「赤ん坊のときから一緒に育ったからな。こいつに敬語を使われるたびに、今でも背中がむず痒くなる。できれば人前でも口調は変えずにいてもらいたいが……」

「それは無理だよ。アミルには至高の存在でいてもらわないと。国の安定のためだから」


そうなんだ……。

兄弟のような間柄だけど、そこには決定的な身分の隔たりがある。

大公として下の者の尊敬と畏怖を集めるためには、幾ら親しくても人前で、クロードさんとの馴れ合いを見せるわけにはいかないということか。

そう納得すると共に、アレ?と思う。

私には、素のふたりの関係をどうして見せてくれるのかと……。

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