男装した伯爵令嬢ですが、大公殿下にプロポーズされました
田舎貴族の私の常識が正しいのか分からないが、ひとつの長椅子に座る男女というのは夫婦のように親しい関係だけだ。
幼子なら関係ないのかもしれないが、十六の私は子供ではない。
そう考えて、間違いにも気づく。
私は今は女ではなく、男だった。
考えるべきは男女のことではなく、ひとつの長椅子に座る男と男の関係性。
その意味するところは……。
戸惑っていると「早くしろ」と命じられ、慌ててテーブルを回って隣に腰を下ろす。
すると大公殿下の左腕が肩に回され、右手で顎を摘まれて、顔を殿下の方に向かされた。
至近距離にある整った美しい顔に、心臓が飛び跳ねる。
これは一体どういうことかと驚く私の顔に、青い視線が移動しながら注がれていた。
「昨日、謁見の間でも思ったが、お前は随分と可愛い顔立ちをしているな。まるで女のようだ」
容姿を褒められても、照れることも嬉しく思うこともできずにいるのは、強い焦りに支配されているからだ。