男装した伯爵令嬢ですが、大公殿下にプロポーズされました
布帯をギュウギュウに巻いて固めた胸だけど、触られたことには間違いない。
初めてこの胸に触れた男性が、大公殿下だなんて……。
自分の奥に潜んでいた女らしい恥じらいが、ひょっこりと顔を覗かせて、身悶えしたくなるような心持ちだ。
それに加えて、さっきとは違う焦りも湧いていた。
ボゾネ一味の男に『男色家の金持ちジジイに売っちまおう』と言われた言葉を思い出していた。
世の中には女性に興味がなく、男を愛でる男色家という男の人が存在する。
もしかして、大公殿下もそうなのでは……。
おかしな方向に焦り始めた私は、逞しい腕から逃れるために立ち上がった。
「あ、あ、あの、大変申しわけありませんが、僕は女性にしか興味がないものですから……」
私がなにを危惧したのかは、その言葉で伝わったみたい。
殿下は形のよい眉を上げて驚いていたが、それは一瞬だけのこと。
美しい顔に似合わない悪党のような笑みを口元に浮かべ、ククッとくぐもった声で笑った。
「へぇ、お前は女しか知らないのか。
だったら俺が教えてやるよ。男の方が気持ちがいいということを」
「キャア!」と叫んでしまったのは、腕を強く引っ張られて、長椅子の上に倒されたからだ。
銀色の髪が私の顔に掛かり、視界を奪うと同時に、フワリとバラの香りがした。
いい香りだと感じている余裕は当然なく、私の上に覆い被さる殿下の胸元を両手で押して抵抗していた。