男装した伯爵令嬢ですが、大公殿下にプロポーズされました

しかしビクともせず、逆に両手首を掴まれ、殿下の左手ひとつで、簡単に頭上にまとめられて拘束されてしまう。

私の耳に唇が当たり「抜け出したお仕置きだ」と甘く囁かれたら、食べられる恐怖に青ざめた。

どうしよう……男だと思ってくれても、脱がされたら女だとバレてしまう……。


そのときボコンと鈍い音がして、「うっ」と呻いた大公殿下は私から急に離れた。

銀髪に隠されていた私の視界が、元の明るさを取り戻したら、配膳用のトレーを片手に持つクロードさんが、笑顔を引きつらせて立っているのが見える。

大公殿下は頭を押さえて床に座っているし……まさか、そのトレーで殴ったの!?


長椅子に寝転がったままで驚く私に、クロードさんは「ステファン様、申し訳ございません」と頭を下げた。

それから殿下を叱る。


「アミル、なにやってんだよ。
他の使用人に見られたら、どうするんだ」

「そう怒るな。冗談に決まってるだろ」

「冗談じゃ済まないよ。二十五にもなって結婚する気がないのは、なぜだと言われてるよね?
引き合わせた御令嬢を無視したり、邪険に扱って泣かせたり。ただでさえアミルは女嫌いだと噂されてるのに、それに男色家疑惑が生じればどうなると思う? 後継問題で国中を動揺させたいの?」


怒りながらも笑顔を崩さないクロードさんが怖かった。

大公殿下は不機嫌そうに眉間に皺を寄せているが、「悪かった」と素直に謝って立ち上がると、ひとりがけの椅子に座り直した。


私はやっと長椅子に起き上がり、目を瞬かせて考え中。

本当は男色家じゃなくて、私をからって遊んでいただけということで、いいのかな?

でも女嫌いというのは……。

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