男装した伯爵令嬢ですが、大公殿下にプロポーズされました
クロードさんの話を聞き終えた私は、噂じゃなくて、本当に女嫌いなのではないかと感想を持った。
口の中で解ける柔らかな羊肉を堪能し、焼き立てのライ麦パンをモリモリと食べながら、私も女性としてこの城に現れたなら、こんな風に話しかけては下さらないのだろうなと思って、大公殿下を見つめる。
殿下は優雅な仕草でナイフとフォークを操り、ニョッキを口に入れつつ「女が嫌いなわけではない」と、頭の中だけの私の意見を否定した。
さすが大公の城と言うべき美味しい料理を口にしているのに、殿下は苦虫を噛み潰したようような顔をして、「女はくだらん長話をするから気に入らないだけだ」と付け足した。
くだらない長話って……クロードさんに、お替わりのパンを給仕してもらいながら考える。
貴族の御令嬢が好みそうな話題といえば、お抱えの画家が描いた自分の肖像画の見事さや、サロンパーティーで呼んだ楽団が、御令嬢のために曲を作ってくれた話や、新作ドレスや宝石についてだろう。
レース編みの腕前自慢もありそうな気がする。
つまりは、ほぼ百パーセント自慢話だ。
落ちぶれ田舎貴族の我が家は、自慢できるようなお抱えの画家も、サロンパーティーでの贅沢もない。
だから私にはそういう、いかにも貴族の御令嬢的な話はできない。
いや、落ちぶれていなくても、そんな話はしないかも。
レース編みなんて退屈なことはしたくないし、じっと動かない絵のモデルになるのも嫌だ。
そんな暇があるなら庭に出で、剣の素振りをしたくなる。