男装した伯爵令嬢ですが、大公殿下にプロポーズされました
大公殿下ほどの剣の達人に、腕が立つと言われて私は喜んだ。
実家では師匠となってくれる人はいなかった。
私に女らしさを求める両親が雇ってくれるはずはないし、木の枝からぶら下げた丸太を叩いたり、ときどき馬番の若い使用人が遊び程度に稽古に付き合ってくれた他、実践練習の相手といえば、夜盗くらい。
だから「先生はいません。自己流です」と答えたら、かなり驚かれた。
「才能があるということか」
青い瞳を細めてニッと笑った殿下は、おもむろに立ち上がると、腰の剣を鞘ごと引き抜いて、私に向けた。
「お前にやる。城内での帯剣を許す」
え……ええっ!?
声も出せずに驚く私の膝に、ポンと剣が放り込まれる。
恐る恐る両手に持つと、ズッシリと重く、実家に置いてきた愛剣よりも刀身の長い片手剣。
鞘には見事な金細工が施され、モンテクレールの紋章である獅子が彫り込まれていた。
こんな立派な剣を、私に……。
ゴクリと唾を飲み込み「頂いても、宜しいのでしょうか?」と大公殿下ではなく、クロードさんに確認したのは、渋い顔をしているからだ。
家紋の入った最上級の品。
一体このひと振りにどれほどの価値があるのか、想像もできない。
非常に光栄なことだと分かっていても、素直に喜べない重みに恐れていた。