男装した伯爵令嬢ですが、大公殿下にプロポーズされました
その夢は、まだ誰にも話したことのない秘密だった。
両親に知られたら叱られるだけでは済まず、腰に差しているこの愛剣を没収されそうな気がするからだ。
父と私の会話を、さっきから怯えた顔して聞いているのは、兄のステファンだった。
私をどこかの裕福な貴族の家に嫁がせ、この家への援助を期待する父に対し、『お兄様がいらっしゃるじゃありませんか』と私が答えたからだろう。
お説教の矛先が自分に向くのではと、怯えているのだ。
ステファンの右手のスプーンはスープ皿の縁に当たってカチカチと音を立て、それでは自分から、『僕にも注目してよ』と言っているようなものなのに……。
その危惧する通り、父の視線が兄に向き、「ステファン」と呼びかけられる。
その声には私を叱りつけたときと違って、どうか願いを聞いてくれと懇願するような、祈るような、そんな響きが込められていた。
「十六歳の誕生日から半年が過ぎたぞ。そろそろ覚悟を決めてくれ。お前が行かなければ、この家はおしまいだ。頼むから……」