男装した伯爵令嬢ですが、大公殿下にプロポーズされました
モンテクレール大公国の貴族には、納税の他にも守らねばならない義務があった。
爵位を継ぐ男子が生まれ、その子が十一歳から十六歳の間に、モンテクレール家のお屋敷に預けるというもので、期間は三年間。
それは表向きには教育のためと言われているが、本来の目的は洗脳だ。
モンテクレール家が戦乱の世を終わらせ、やっと平和が訪れても、貴族の中には不満を抱いている者もいるらしく、反乱が起きぬよう、大公家に逆らうなという教えを受けなければならないのだ。
その義務を果たさないとどうなるか、というと……爵位剥奪、領土没収。早い話がお取り潰しだ。
父に諭すように言われたステファンは、いつものごとくガタガタと震え出す。
椅子の上で膝を抱えて丸まり、その姿は弱虫なダンゴムシと言ったところか。
臆病な彼は、たったひとりで三年も、大公殿下の城に行くのが怖いらしく、期限は後半年だというのに、まだ頑なに拒否し続けていた。
「ステファン、行かねばならんのだ」と父が静かな低い声で呼びかける。
母も「大丈夫よ、ステファン。なにも怖いことないわ」と優しい声で決意を促した。
それでも彼は「ヤダ」とひと言言っただけで、丸まったまま。視線を合わせようともしない。