男装した伯爵令嬢ですが、大公殿下にプロポーズされました
途中でハッとした顔をして口をつぐんだジェフロアさん。
「少々、喋りすぎました。これで失礼します」と無理やり話を終わらせて、私に背を向け歩き出した。
中庭を出て行く、青い衣の大きな背中を見送りながら、私は首を傾げて考える。
大公殿下の父君である前大公がご病気でご逝去されたのは、確か、七、八年前のこと。
その後、喪が明けてすぐに、今の大公殿下が即位された。
その頃の私はまだ幼く、即位式に両親が呼ばれて出かけて行った記憶が薄っすらと残っている程度で、都の情勢についてはなにも知らない。
ジェフロアさんは、まるでそのときの治安が特別に悪かったような言い方をしていたけれど、その理由はなんだろう?
気になるけれど、途中で話すのをやめたジェフロアさんの顔を思い出して、詮索してはいけないことなのだと考える。
こんな私でも、子供じゃないから、それくらいは判断できる。
きっと誰に聞くのも、ダメなのだろうと……。
全ての授業が終わったのは、西の空に赤みが帯びる頃。
晩餐にはまだ時間があるので、自室にて沐浴をする。
屋敷の一階の北側には、石造りの立派な沐浴場があり、いつでも湯が湛えられているそうだけど、貸切にはできないらしい。
男女に別れているだけで、途中で誰かが入ってくることもあるというから、私は部屋で沐浴している。
ジャコブに頼めば、大きな木桶と湯の張ったバケツを持ってきてくれるので、それで体と髪を洗うのだ。