男装した伯爵令嬢ですが、大公殿下にプロポーズされました
「本日のメイン料理は鴨肉の香草焼きなのですが、調理人が焦がしてしまいました。ただいま作り直しておりますので、晩餐が遅れるとのことです。ご迷惑をおかけします」
それを聞いて、私は笑った。
お城の調理人でもうっかりすることがあるのかと、親しみを感じていた。
焦がしても別にいいのに、とも思う。
焦げた表面だけナイフで削ぎ落とせば、問題ないでしょうと。
ベッドに座り直し、笑いながらそう言うと、ジャコブは沐浴の後片付けを始めながら、「それで許して下さるのはステファン様だけかと思います」と苦笑いする。
それから「晩餐が始まるまで、お勉強でもーー」と言いかけたので、慌てた私はその言葉を遮って両手をパチンと合わせた。
「そうだ、中庭を散歩してこよっと!
髪も乾くだろうし、時間潰しにはそれが一番だよね!」
そう言うやいなや、ジャコブの返事も聞かず、剣だけを掴んで急いで部屋を飛び出す私。
午後はじっと座っての算術の授業だった。
頭の中が数字で埋まるほどに勉強したのに、今日はもう、勘弁してほしい。
絨毯敷きの螺旋階段を駆け下りる。
中庭に出られるドアは、廊下の東西南北に一ヶ所ずつあり、南側のドアを開けて外に出ると、夕暮れの涼しい風に肩までの金色の髪がなびいた。