男装した伯爵令嬢ですが、大公殿下にプロポーズされました
ああ、気持ちいい……。
ひと月経たないと、城内であっても屋敷の外に出てはならないと言われている。
一度は破った約束も、大公殿下に迷惑をかけると分かった今は、守ろうと言う気持ちに変わっていた。
なので、この中庭は外に出られる唯一の場所。
ここに来ると幾らか開放的な気分になれるので、時間を見つけては散歩していた。
午前中にジェフロアさんと木刀を交えたレンガの広場も、今は誰もいないのでとても静か。
聞こえるのは噴水の水音と、風にそよぐ草花の、葉の擦れ合う音くらい。
白大理石の噴水の縁や、それを飾る彫像が、夕日を浴びて橙に色づいて美しい。
噴水の前にはガーデンチェアが置かれていて、そこに座って天を仰いだら、建物の壁に切り取られた四角い空に、雉が一羽飛んでいた。
それを見て、お腹がグウと鳴る。
今日は鴨肉の香草焼きか……。
脂の乗った鴨もいいけど、雉肉の野性味溢れた味も好きなんだよね……。
そう思っていたとき、後ろにコツコツと靴音が聞こえて、何気なく振り向く。
レンガの広場を横断し、まっすぐこっちに向かって来るのはバルドン公爵で、驚いた。