男装した伯爵令嬢ですが、大公殿下にプロポーズされました
ずんぐりとした体型の、顎髭と贅肉を蓄えたその顔は不愉快そうで、それまでののんびりした気分の吹き飛んだ私は、急いで立ち上がり挨拶した。
「バルドン公爵、ご機嫌よう。
僕になにか、ご用でしょうか?」
公爵も散歩を、という雰囲気ではない。
私のすぐ目の前で立ち止まり、フンと鼻を鳴らして睨んでくる。
「お前はなにゆえ、腰に剣を差しておる。
獅子の紋まで入っているではないか。まさか殿下が与えたというのか?」
「は、はい。大公殿下に賜りまして、帯剣も許されたのですが……」
どうやらバルドン公爵は、廊下の窓から私の姿を見かけたときに、この剣に気づいたらしい。
それで文句を言いに、わざわざ中庭まで出てきたということだ。
城内で帯剣を許されているのは、青の騎士団と限られた貴族だけ。
バルドン公爵の腰には、宝石や金銀でこってりと装飾された豪華な剣の鞘が見えていて、私ごときが自分と同じ特別な計らいをされたことに腹を立てているようだ。
不機嫌そうにしかめた顔を見て、私は冷や汗をかく。
剣を持ち歩くなと言われたら、どうしようと危ぶんでいるのだが、それ以上の言葉を言われてしまった。
「お前のような田舎貴族が、モンテクレールの剣を持つなど許されんことだ。身分をわきまえよ。その剣は、わしから殿下に返しておこう」