男装した伯爵令嬢ですが、大公殿下にプロポーズされました
まさかの没収!?
それは嫌だ。愛剣と別れて寂しかったこの腰に、突然やって来てくれた新しい相棒。
私ごときが大公家の紋章の入った剣を持つなど、おこがましいことだと分かっていても、既にこの手にしっくりと馴染んでくれて、愛着が湧いている。
大公殿下、直々に、やっぱり返せと言われるなら従うけれど、他の人から言われるのは嫌。
例えバルドン公爵であっても、絶対にこの剣は渡せない。
「それはできません!」とハッキリ断って、バルドン公爵と距離を取る。
円形の噴水に添うように、一歩二歩と後ずさると、公爵が「ワシに逆らうのか」と恐い顔して二歩詰める。
私がまた下がると公爵も前に足を進めるから、同じ距離を保ちながら、噴水の周りをゆっくりと回って歩くという、おかしな状況になっていた。
「なにを逃げておる。早くその剣を渡すんだ」
「この剣だけはお渡しできません!」
ふたりで噴水の周りを三周ほど歩いたとき、突然中庭に、素敵なバリトンボイスの笑い声が響いた。
それは頭上からで、足を止めて見上げると、二階の謁見の間の窓を開けて、大公殿下が下を覗いていた。
「叔父上、なにを遊んでいる」