男装した伯爵令嬢ですが、大公殿下にプロポーズされました
父の関心が兄へと向いたので、私はもう自室に引き上げてもよさそうだった。
しかし椅子の後ろで立ったまま、足を動かせずにいるのは、複雑な思いの中にいるからだ。
ここは朝食室と呼ばれる、家族の朝食のためだけに使用される部屋なのに、天井からはシャンデリアが吊るされ、舶来品の絨毯に壁には大きな絵画。
椅子やテーブルは精緻な彫刻が施され、家具職人に特別注文した一級品だという。
大広間や晩餐室や応接室は、もっと豪華絢爛で……でも、どこを見てもオンボロだった。
フォーレル家が栄えていたのは、曽祖父の代までで、その後は戦乱もあって衰退し、復活できぬまま今の貧乏生活に至る。
ここを訪れる客もほとんどなく、広い屋敷の修理保全に手も金も回らない。
シャンデリアは金具が錆びて光を失い、折角の絵画も額縁の塗装が剥がれれば台無しだ。
舶来品の絨毯も色褪せて、一級品だという椅子も座るたびに軋む音を響かせている。
落ちぶれ貴族のフォーレル伯爵家。
この家を早く出て、いつか騎士になりたいと夢見ているけれど、ここがなくなるのは嫌だな……。