男装した伯爵令嬢ですが、大公殿下にプロポーズされました
止めてくれる人がいない、ということは……。
力も体格も、なにもかもが私の遥か上を凌ぐ大公殿下。
なにかされたらどうしようと危ぶむ私の気持ちに気づいたのか、殿下は頬から手を離し、私の額を指先で弾いた。
「痛っ」
「まだ怪しんでいるのか? この前のは冗談だと言ったろう。男を抱く趣味はない。
ただ、今日のお前は一段と女のように見えるから、不思議に思っていただけだ。髪を結わえていないせいか?」
さっき中庭に出ていたのは、髪を乾かす目的もあってのことだった。
もうだいぶ乾いたから、結んでもよさそうだけど、紐を自室に置いてきてしまった。
殿下は私から離れて椅子の方へ。執務机の引き出しから青い紐を取り出している。
それを手に戻ってくると、私の後ろに立った。
「大公殿下、なにを……」
「前を向いて、じっとしてろ」
美しく長い指先が、私の髪を梳く。
それからひとつに束ねて、どうやら紐で結わえてくれているようだ。
「書簡を結ぶ紐しかないが、結ばないよりはマシだろう」